東北関東大震災と原発問題

2012年09月23日 17:18

 

 私が直腸癌で直腸を全摘してから9年ほどが経過しました。その間,CTスキャンは30回ほど,胸部・腹部レントゲンは他の検査も含めるとそれ以上になります。いわゆる放射線です。今,まさしくその放射線量などが大きく報道されています。
 糖尿病をもっていたために,手術後の状況は最悪のパターンをたどりました。第1回の手術から2日後に縫合不全のため,縫合部から大量のリンパ液(?)が腹部に漏れたようでした。急性腹膜炎で緊急手術を行いました。幸いにこうして命を繋ぎましたが,縫合不全の大腸と肛門部分の接合部分に漏れが無くなるまで,人工肛門を半年ほど装着しました。1ヶ月毎に造影剤注入による注腸検査を行ってくっついたかどうかを検査しました。その検査というのは,私の命の恩人である名医が鉛のヨロイを着て,隔離された別室のレントゲン技師に指示をしながら何枚ものレントゲン撮影を行うというものです。ある時私は訪ねました。「先生,こんな検査を毎回行って,先生がこの場で直接放射線をあびて,先生は大丈夫なのですか?」と・・・。先生は笑って「・・・大変なのは患者さんですから・・・」とおっしゃっいました。
 先生のその言葉を,この9年間ひとときも忘れたことはありませんでした。
 
 この度の原発事故による放射線や放射能への人々の心配は大変な事態に発展しているといえます。報道各社も政府の対応に心配をしながらも,「・・・冷静に,風評被害を助長しないように・・・」と,苦しい報道を続けています。
 私は専門家ではないので全く根拠のある主張ではありませんが,素人考えとしてあえてこんなときだから書きます。
 政府の言っている「直ちに影響が出るものではない」等々のコメントとは,何をどう理解したらよいのでしょうか。裏を返せば「いつか影響が出る・・・」ということなのでしょうか? たぶん「それはわからない」と言うでしょう。
 学者も保身があってのことであろうと思いますが,現状データーを基に,現在進行形の事態の深刻さの程度をコメントするだけです。当然,「この程度なら大丈夫」というニュアンスで語っています。では,「このままでいくとどうなるの?」という質問には,明言を避けるため,答えられないようです。推測では言えないのです,あたりまえですよね。
 とにかく,原発事故の早期修復を待つという気持ちはみんな同じです。
 今回の原発事故の放射線量は,私のつたない経験で書いた様々な医療に使われている医療器具からの放射線のものとは比較をできない別の次元のものであると思います。間隔を開けて受けている治療による放射線量と,絶えず出続けている今回のものとは違うのです。
 つまり,放射能物質の蓄積値を考える必要があると思います。
 想像していた通り,食物や動物,水などからセシュームが検出されました。首都圏の水だって,必ずや検出されるのは時間の問題と思います。川は,源流から長い長い道のりを経て海に注いでいます。私たちはその水を水道で飲んでいます。井戸水も例外ではありません。そう考えるのが当たり前であろうと思います。セシューム等が検出されれば,当然のことながらすぐに飲用を控えるように指示が出るでしょう。また,その時にはたぶん,「この程度では直ちに健康被害が出ませんが・・・」と前置きがつくでしょう。
 いろいろなことを予想しての危機管理から,すでに外国人の多くが日本脱出のために飛行場に行列ができています。それらの報道を横目に,私たち日本人はさらに不安な気持ちが増長しています。報道も根掘り葉掘りの報道を続ける一方で,「大丈夫!と学者に言わせる番組を組み続けています。道徳心やモラルを尊ぶCMが幾度も幾度も流されています。きっと,日本人は堪えていくでしょう。何が起きても。どんな状況下でも,がまんして,けっして文句も言わずに。
 
 さて,どうしたら良いのか。今さら,外国や他府県に逃げることなどできません。被災地や原発周辺の方々の自力による他府県退避も続いています。取り残されて動けない高齢者,何とかその場に残って献身的にお世話をしている方々や医療関係者,原発事故の修復のために「被曝量のことなどいってられない」と毎日修復作業を行っている作業員がいます。覚悟を決めた決死の作業です。事故原発をとりまくように,訓練された自衛官や東京消防職員のこれまた決死の作業が慎重に進められています。
 被災地での避難民や被災者は,放射線のことなどを気にしている状況ではないでしょう。食料も暖房も水も,なにもかも不足の中で堪えています。
 乾ききった大地に潤いを与えるがごとくに,昨日から冷たい雨が降っています。春に向かって,私たちの住む大地の生命が息吹の準備を始めています。放射能が降り注がなければよいのですが,そんなことは自然界にはまったく関係がありません。命の連鎖はとどまることがないのです。
 こんな状況下,断腸の思いで農家廃業を決めた方も出てきました。「悔しい!この思いを誰にもぶつけられない・・・」と言います。
 とんでもない事態向かってに刻々と時計の針が回っている気がします。この未曾有の災害・大地震の前に,できるものなら針を戻したいと思います。どうしたらよいのでしょう? 「原発さん,そんなに怒らないでください,お願いです。」